超個人的刑法総論レジュメ② (罪刑法定主義)
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第1章 刑法総論序説
Unit2 罪刑法定主義
Ⅰ.罪刑法定主義の意義
1、罪刑法定主義の定義
→何が犯罪となり、それに対してどのような刑罰が科せられるかは、あらかじめ法律で定められなければならない
※根拠条文…憲§31
2、実質的背景
(1)民主主義的要請
何が犯罪として処罰の対象となるかは、国民が正当に選挙された国会における代表者を通じて自ら決定する
(2)自由主義的要請
何が犯罪かは事前に定められている必要がある
→行動の予測可能性を保障し、それに伴う行動の自由も保障できる
Ⅱ.罪刑法定主義の派生原理
1、法律主義(←民主主義的要請)
(1)定義
何が犯罪となり、それに対してどのような刑罰が科せられるかは、国会が法律により定める必要がある
(2)射程
・慣習法、条理などの不文法…×
・条例…○ (∵民主主義的要請を実質的に満たしている)
・命令、規則…△ (憲§73⑥但書参照)
→法律による特定の委任がある場合は可能
※その委任の程度には留意する必要あり
2、(被告人に不利益な)事後法の禁止(←自由主義的要請)
事後的に罰則を遡及して適用し、処罰することは許されない(遡及処罰の禁止)
※憲§39参照。
※犯罪後に刑を重くする場合にも当てはまる
※公訴時効の事後的延長、判例の不利益変更の問題
3、(被告人に不利益な)類推適用の禁止(←自由主義的/民主主義的要請)
※拡大解釈は許される
↳法律でおよそ刑種や刑の程度を決めない場合
5、明確性の原則
どのような行為を犯罪とするかは明確に規定しなければならない
⇔ある程度の抽象性は必要
⇒?「どの程度明確性が要求されるのか」
【判例1】最大判S50・9・10刑集29巻8号489頁(徳島市公安条例事件) (事案)Xは徳島市内において反戦運動として集団示威行為に参加し、蛇行進をするなど交通秩序の維持に反するような行為を行った。そこでXは徳島市公安条例3条3号に基づいて起訴された。 |
最高裁は、明確性は「通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読み取れるかどうか」により決定すべきであると述べ、徳島市公安条例はそれを満たし、合憲であるとした。 |
6、内容適正性の原則
処罰の内容・範囲は適正でなければならない
【判例2】最大判S60・10・23刑集39巻6号413頁(福岡県青少年保護育成条例事件) (事案)XはAが16歳であることを知りながら性交した行為につき、本条例10条1項[1]・16条1項に基づき、起訴された。 (争点)①10条1項の「淫行」は明確性に反しているのではないか。 ②10条1項の「淫行」は内容適正性に反しているのではないか。 |
最高裁は、「『淫行』とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当」と述べ、このように解せば、明確性・内容適正性に反しないとして、合憲とした。 ※この判断には、この解釈は徳島市公安条例事件の基準に適合しているのかという批判がある。 |
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【補足】
このレジュメであげられている判例1と判例2の事件は、刑法学というより憲法学や行政法学の重要判例です。詳細な説明はそちらの分野の教科書に書かれていることが多いです。
[1] 「何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつな行為をしてはならない」と規定。